聴覚過敏とは?症状や原因、発達障害との関係を解説
聴覚過敏(Hyperacusis Phonopobia)とは、感覚過敏の一種で、日常生活音が過度に大きく聞こえて、不快感や苦痛を感じる症状です。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 特定の音や声が苦痛に感じる
- いつも同じ音に対して嫌悪感や不快感がある
- 大きな音ではないのに耳を塞いでしまう
- 多くの音が聞こえる場所が苦手
また、聴覚過敏は、以下のような症状を引き起こすこともあります。
- 耳の奥が痛い
- めまいや頭痛がする
- 会話の内容が頭に入らない
- すぐに疲れる
- 音が気になって眠れない
聴覚過敏の原因は、まだ完全には解明されていませんが、以下のようなものが考えられます。
- 耳の器質的な異常
- 自律神経の乱れ
- ストレス
- 発達障害
聴覚過敏の治療法は、原因によって異なります。
- 耳の器質的な異常がある場合は、耳鼻咽喉科を受診して治療を受けます。
- 自律神経の乱れやストレスが原因の場合は、薬物療法やカウンセリングなどが行われます。
- 発達障害が原因の場合は、発達障害の治療と合わせて、聴覚過敏の症状を軽減するための方法を検討します。
聴覚過敏は、日常生活に大きな支障をきたす可能性のある症状です。もし、聴覚過敏の症状がある場合は、早めに医療機関を受診して、適切な治療を受けることが大切です。
なお、稲福ら(2013)の研究では、ASDの子どもの中には、本人は自覚がないが、聴覚過敏やその他の感覚過敏を持っている子どもが多いことが指摘されています。ASDの子どもの聴覚過敏の症状を早期に発見して、適切な支援を行うことが重要です。
発達障害の子供に多い聴覚過敏の原因と症状
聴覚過敏の原因は、まだ完全には解明されていませんが、脳の機能や耳の機能、心理的なストレスなどが考えられます。
ASDの子どもの聴覚過敏については、杉山ら(2000)は、高位中枢における聴覚の選択的注意の障害が根本的病理であると報告しています。つまり、ASDの子どもは、音の中から必要な音を抽出する能力が低下しており、そのために特定の音や声が過度に大きく聞こえてしまうのではないかと考えられています。
中川ら(2012)の特別支援の小学生調査によると、聴覚過敏があると回答した子どもは45%、過去に聴覚過敏があると回答した子どもも含めると75%になるとされています。発達障がいが疑われる子どもには比較的多い症状といえます。
聴覚過敏の症状は、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。そのため、ASDの子どもの聴覚過敏の症状を早期に発見して、適切な支援を行うことが重要です。
また、ASDの子どもの聴覚過敏の症状を理解し、周囲の人が配慮することも大切です。
どんな音が苦手?
聴覚過敏の子どもは、尖った甲高い音を苦手とする傾向があります。これは、高音は耳に響きやすく、脳に伝わる刺激も大きいためと考えられています。
具体的には、犬の鳴き声や子供の声、スーパーやデパートの館内放送などが苦手とされることが多いようです。
Rosenhall(1999)の研究では、ASDの子ども192名の小児に行った脳波で聴力を見るABR(聴性脳幹反応)検査において、21名が80dbの音に耐えられなかったという報告があります。80dbとは、日常では地下鉄の車内、交差点などの騒音に相当する音量です。
青木らによる「小学校教室内の音環境調査」によると、学校場面では、小学1年生の学級では、国語、音楽、給食、学級活動、どの時間においても80db以上であり、学年が上がるとともに教室内の音も変化し、6年生では60db前後になると報告されています。
聴覚過敏の子どもが苦手な音にさらされると、ぐったり疲れてしまう、会話の内容が頭に入らない、音が気になって集中できないなどの症状が現れ、心身の不調につながるとされています。
聴覚過敏の子どもに必要なこと
聴覚過敏の子どもへの対応は、大きく分けて以下の4つです。
- 苦手な音の刺激を取り除く、軽減する
具体的には、以下のような対策が考えられます。
- 音の発生源を特定し、音量を下げる、音を遮断するなどの対策を行う。
- 子どもが静かな場所で過ごせるようにする。
- 子どもの苦手な音を避けるようにする。
- 耳に入る音を減らす、苦手な音を防ぐためのイヤーマフの使用
イヤーマフは、子どもにとって安心グッズにもなり、心理的にもよい効果があります。ただし、イヤーマフを長時間使用すると、耳の健康に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。
- 静かなスペースの確保
子どもが休める静かな部屋などを用意して休憩できると理想的です。また、学校では、図書室や保健室など、子どもが静かに過ごせる場所を用意しておくとよいでしょう。
- 不快な気持ちへの対処法
リラックス法を身につけることで、聴覚過敏の起きた場面への怖さや、苦手でも大丈夫という感覚が養えます。具体的には、深呼吸やヨガなどのリラックス法が有効です。
また、学年が上がるにつれて聴覚過敏の傾向は低下する傾向にありますので、苦手な場面でもコントロールできるという感覚を身につけることが低学年では重要になります。
具体的な対応策を考える際には、子どもの症状や環境、年齢などを考慮することが大切です。また、子どもの意見を尊重し、一緒に対策を考えていくことも重要です。苦手な音、それが発生する状況は子どもによって異なります。まずは、その子がぐったりしてしまう前の状況について観察し、環境改善に取り組むことがベストです。
参考・引用文献
・稲福繁・伊藤真理・早川徳香(南山大学)・井脇貴子・鈴木朋子・船崎康広・吉田敬(2017)「自閉症スペクトラム障害における聴覚過敏」健康医療科学研究第3号pp1-7
・Rosenhall .U .,V.,Standrom .M .,Ahlsen ,G .,&Gillberg ,C .(1999).Autism and Hearing Loss. Journal of Autism and Developmental Disorder s29(5)349-357.
・杉山登志郎(2000)「自閉症の体験世界 高機能自閉症の臨床研究から」『小児の精神と神経』40(2) 88-100
・高橋 秀俊・上野佳奈子・中村亨(2018)「教室内音環境と聴覚処理特性が子どものメンタルに及ぼす影響」・中川辰雄訳(2012) 『聴覚過敏――仕組みと診断そして治療法』海文堂出版.